迷走電流腐食
- 2017.09.21
- カテゴリ: 知識|Knowledge
|錆びにくいステンレス鋼
ステンレス鋼の最大の特徴は、「錆びにくい」金属であるということだと思います。
その原理は、ステンレス鋼の中に含まれたクロム(Cr)が大気中の酸素(O)と結合する事で「不動態皮膜」と呼ばれる薄い保護被膜を形成するためです。
この保護皮膜である「不動態皮膜」が錆びの進行を防ぐ役割を果たしています。
また、この「不動態皮膜」の特徴は、破壊された場合に「自己修復機能」を有している点にあります。
仮に加工中や使用中に不動態皮膜が破壊されてしまった場合でもメッキや塗装と異なり、鋼中のクロム(Cr)と大気中の酸素が結合し、「瞬時に再生」致します。
また、「自己修復機能」は大気中に酸素がある限り、無限に繰り返されます。
そのため、ステンレス鋼は半永久的に錆びない仕組みを作り出せるのです。
しかしながら、「不動態皮膜」だけでは万能とは言えません。
実際に「錆びない」ではなく「錆びにくい」金属であることを理解して使用しなければなりません。
|迷走電流腐食
錆びにくいステンレス鋼ではありますが、その使用環境や管理方法によっては、腐食してしまう場合もあります。
その一つが、「迷走電流腐食(stray current corrosion)」です。
電気回路が形成されることによって発生する金属腐食を総じて「電食(でんしょく)」と呼ばれますが、防せい防食用語(JIS Z 0103)からすると、この「迷走電流腐食」のことを指すとなっています。
「迷走電流(stray current)」とは、正規の回路以外のところを流れる電流のことであり、目に見えない存在だけに、その影響を軽視される方も少なくありません。
しかし、古くは、1890年初期にアメリカで市街電車が開通した際に石油やガス管に「迷走電流」による腐食が多発しました。
国内においては1895年(明治28年)に架空単線式直流電気鉄道の営業運転に端を発し、その後、明治後期から大正初期にかけて電気鉄道が多数開業されると「迷走電流腐食」による被害が急増しています。
その後、1965年からは埋設配管に対して排流器(迷走電流を軌道に帰流する装置)による対策が講じられ、レールからの「迷走電流」に起因する電気防食は減少傾向になります。
「迷走電流腐食」は、ステンレス配管に限ったものではなく、電気を通す金属配管全般に起こり得る腐食です。
最も報告の多い事例となるのが直流電流を使用する電車軌道からの迷走電流が起因するの場合です。
直流電気鉄道の電流軌道は、[ 変電所 ] → [ 架線 ] → [ 電気車両 ] → [ レール ] そして、[ 変電所 ]に戻るのが基本です。
ところが、電流軌道から外れた「迷走電流」が、土壌より導通のよい金属構造物に流入し、その電流が土壌中に流出する部分で電気分解作用することにより「迷走電流腐食」が発生します。
特に、レールと平行して埋設された金属配管は「迷走電流」が流れ込み易いので注意する必要があります。
また、「迷走電流」の影響下に埋設された配管が受ける対地電位は地平部、高架部、トンネル部など地形や地質により変化します。
結果、対地電位の差である電位勾配が大きい程、「迷走電流」の影響を受け易い状況です。
そのため、レールと垂直に埋設された金属配管においても、レールと並行する低抵抗率の土壌の連続層があると「迷走電流腐食」の可能性が高くなるともされています。
|迷走電流腐食の防止
「迷走電流腐食」を防止するためには、その根源である「迷走電流」を制限す ることが望ましいのは当然です。
しかし、現実的には、「迷走電流」を簡単にかつ正確に測定する方法がないため、生じる電位勾配を制限する方法が採用されています。
そのため施工側の対策として、近所に直流電流を使用する電車軌道がある場合に、ステンレス配管をはじめとした金属配管を埋設する場合には何らかの防止処置が必要です。
例えば、外面をポリエチレンや塩化ビニルなどで皮膜した管を用いたり、防食テープを巻くなどの外面被覆処理を行なって使用されるのが一般的です。
ベンカンでは、処置が合理的で確実な「ポリエチレンスリ-ブ」を管の外側に被せて処置することを推奨させていただいております。
▲迷走電流腐食の防止処置例:防食テープ(画像左)とポリスリーブ(画像右)