戦略人事「キャリアアップ教育制度」
- 2020.12.11
|戦略人事
高度経済成長期そして、20世紀の近代的工業化と著しく発展した日本経済を支えたのは企業でした。
そして、その企業を支えたのは紛れもなく、そこで働く人たちです。
当時は、経済は常に右肩上がりに成長していくものだと信じられ、また、現実にそうなっていた時代でもありました。
結果的に、当時の人事制度の目的は、年功序列や終身雇用に代表される安定的な共同体としての労使関係の維持であったと言えます。
しかし、現代は、良いモノを作れば売れるとも限らない、多様性、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性などのキーワードが飛び交うVUCA時代へと変遷しております。
その様な時代だからこそ、持ち得た経営資源を如何に最善活用するかが重要視されます。
そして、その経営を下支えする経営資源の筆頭が、昔も今も、やはり、人材です。
時代の変化に伴い人材に求められるスキルも変化しています。
故に、今後は、より戦略的人的資源管理(戦略人事)が重要視されます。
|リスキリング
VUCA時代において企業が推進すべき戦略人事の一つにリスキリングがあります。
リスキリング(Reskilling)とは、一般的に学び直しとも称されますが、決して、過去に得たスキルの復習ではありません。
働き方の多様化や技術の進展などによる産業構造の根本的な変化によって、今後新たに発生する業種や職種に順応するための知識やスキルを新たに習得することを目的に、人材の再教育や再開発をする主に企業の戦略人事の一環として言われます。
しかしながら、人間には、現状を現状のまま維持したいと思う無意識の欲求である現状維持バイアスも働くとされています。
されには、認知バイアスの一種に、ダニングクルーガー効果と呼ばれるものもあります。
これは、求められる能力に対して、自分自身の能力を過大評価してしまう現象を指します。
・自分自身の能力が不足していることを認識できていない。
・自分自身の能力がどの程度不足しているかを認識できない。
・自分以外の人たちの能力が、どの程度なのかを認識できていない。
結果的に、実力を伴わない、根拠のない自信を持ってしまうのだそうです。
現在、ベンカンは、グループ会社であるベンカン・ベトナムを加えると400人を超える社員が従事する組織となっております。
以前は、社員全体の能力を会社がベースアップさせようとしていた時期がありました。
勿論、一度に全員に対して教育を実施する訳には行きません。
そのため役職別、年代別にクラス分けして、年間のカリキュラムを組んで、勉強会を設定して、対象者に参加させていました。
ところがいくつかの問題がありました。
まず、先述の現状維持バイアスやダニングクルーガー効果です。
また、役職別、年代別にクラス分けしても、個人によって、理解レベルが違って来てしまいます。
さらには、理解することが目的となり、それを活かして実行に移すまでにならない場合もありました。
そもそも、会社が一方的に社員を教育する考え方が、その自律性を奪ってしまっていたのかと思います。
|キャリアアップ教育制度
ベンカンがリスキリングの機会として設けているのがキャリアアップ教育制度です。
最低限の頻度で、横並びの教育は継続して実施するものの、キャリアアップ教育制度では、社員自身の自律性を尊重した機会の提供を前提としております。
具体的には、社内外で開催される研修や勉強会の参加となりますが、決して参加することだけが目的とならないような制度としています。
例えば、社員の自習支援です。
その意味でも、最も活用しているのが書籍です。
社員の自習と会社方針に乖離が生じないように規程的な位置づけとして共有書籍を設定して、会社が社員に貸し出しを行っています。
書籍であれば、時間や場所に制約されることなく勉強することが可能です。
また、自分のペースで勉強できることも魅力かと思います。
場合によっては、個人で、共有書籍からステップアップした書籍を手に入れて学ぶこともできます。
但し、一方的に社員の自習に委ねるだけでは、モチベーションが高まらないとも考えています。
そのため、前出の研修や勉強会でフォローアップします。
加えて、グループウェアや職場でのミーティングでも、意見交換できるような場を設けるようにしています。
そして何よりも、共通の書籍を共有することで、単語や表現、掲載ページなどの詳細部分も共有し、いわゆる共通言語で意見交換ができることから、コミュニケーションの向上にもなります。
また、社員自身の自律性を尊重したキャリアアップ教育ではありますが、マネジャーが無関心、放任して良いのとは違います。
マネジメントの一環として、部下が高めるべきスキルは何かなどをフィードバックしてリスキリングの意識を促す必要があります。
このキャリアアップ教育の制度は、社員一人一人が発揮する能力を高める機会として社内に定着させたいと考えております。
また、それらのキャリアアップの機会に参加したからといって評価を高めることも、参加しないからといって評価を低くすることはしません。
あくまでも、評価されるのは、実務で発揮される能力であるとしております。
我妻 武彦(Takehiko Wagatsuma) 代表取締役社長