ナラティブマーケティング
- 2022.04.23
|マーケティング
企業が、その目的である「顧客の創造」に欠かせない機能の一つが「マーケティング」であるといわれています。
故に「マーケティング」とは、営業だけのものではなく経営に広く関連し、かつ深く関連してきます。
しかしながら、複雑に捉え過ぎると、取り組みも複雑化してしまいます。
シンプルに捉えた考え方としては、「ニーズに応えて利益を上げること」あるいは、「自然に売れる仕組みをつくること」などがあります。
マーケティングで顧客に対するプローチ手法には、大きく分けて、パーソナルアプローチとマスアプローチがあるとされています。
パーソナルアプローチは、パーソナライズとも呼ばれ、営業パーソンが顧客や見込み客に対して、訪問して、ほぼ、マンツーマンで提案するものです。
そして、インターネットの普及によって重要性が高まっているデジタルマーケティングに代表的なものが、何らかの媒体を介してのアプローチ手法であるマスアプローチです。
特に、2020年春に世界的に襲った新型コロナウィルス感染症によるパンデミックでは、パーソナルアプローチを制限することとなり、よりマスアプローチによるデジタルマーケティングの重要性が高まりました。
|純粋想起
何らかのキーワードに対して、特定の製品やサービスを思い出してもらえることを純粋想起といいます。
人の記憶について考えます。
記憶には、それを司る脳を基準とした「外部記憶」と「内部記憶」があるとされます。
つまり、「外部記憶」とは、脳の中にない記憶であり、「内部記憶」とは脳の中に蓄積された記憶です。
そもそも、脳の中には元々は情報はありませんので、何らかの手段で「外部記憶」から情報を得ることになります。
本人からしたら知らない情報である「外部記憶」を得ようとするならば、インターネットや参考書などで調べたり、知っている方に尋ねる以外に手段はありません。
さらに、「内部記憶」には、「短期記憶」と「長期記憶」があるといわれています。
「短期記憶」は、比較的短い、秒単位の時間しか保持されない記憶で、何れ「長期記憶」や「外部記憶」に移動してしまいます。
また、ワーキングメモリーとも言えるように、活性化されている記憶ですので、何らかの問いに対して迅速に答えが出ます。
対して、「内部記憶」にはあるものの、なかなか思い出せない記憶があります。
これが、「長期記憶」です。
「長期記憶」ですが、「短期記憶」に比べて長い時間保持されますが、なかなか想起されません。
さらに「内部記憶」ですが、何らかの刺激を与えないまま放置していれば、何れ「外部記憶」に戻ってしまいます。
つまり、完全に忘れてしまいます。
マーケティングで考えた場合、自社の製品やサービスを如何にして顧客の短期記憶に留め、機会があれば純粋想起していただくことが大切です。
当然ながら純粋想起していただくことで、購買に至る確率が高まることになります。
|ナラティブマーケティング
何十年も前に聴いていた懐かしい音楽を聴くと、不思議と当時のことを思い出すことがあります。
これは、長期記憶にあったものが、当時の自分の置かれた環境を、当時の音楽が想起のキーファクターになったのだといえます。
デジタルマーケティング全盛の時代に、相反する様な感情的な手法ともいえるナラティブマーケティングが注目されています。
ナラティブとは「物語」という意味です。
このナラティブマーケティングによるアプローチ手法を考えてみます。
特徴としては、単なるストーリー性を提案するのではなく、物語の中に顧客を深く没入させ、感情を移入してもらうことです。
そのため物語の主人公が顧客であることが重要であり、その主人公を中心に製品やサービスを溶け込ませる必要があります。
製品やサービスあるいは企業には、必ず顧客との関係があります。
特に歴史の長い製品であったり、長く使い込むような耐久財的な製品であればある程、顧客との関係性が強くなります。
また、新製品であれば、ロールプレインゲームのように物語を創作して、その中に顧客を主人公として登場させるイメージかと思います。
ナラティブマーケティングとは、その顧客との関係性を物語を通して純粋想起していただくようなブランディングともいえます。
例えば、ベンカンのモルコジョイントは、1975年に発売されました。
その後、1991年に施工管理を容易にするセフティー機能を装備したダブルプレスを発売しました。
実は、その際にモルコジョイントは段階的に販売を縮小するつもりでした。
確かに販売量は一定量まで縮小しました。
しかしながら根強い顧客の皆様の存続を訴える声に背くことはできませんでした。
結局、現在でも多くの皆様にご利用いただいている製品です。
正にお客様とモルコジョイントの間には物語が存在しているのだと思います。
我妻 武彦(Takehiko Wagatsuma)
代表取締役社長