コミュニケーション「嫌われる勇気」
- 2012.10.21
|コミュニケーション
人は、社会やコミュニティ、または個人の特定ニーズを満たす上で、一人で成し遂げることができることには限界があります。
それ故に、より大きな目的を達成させるために、同じ意志を持った個人が集って組織を形成します。
また、目的は同じであっても、それを実現させるための意識、能力、方法論などは決して均一ではありません。
そのため対人関係の悩みが発生することも少なくありません。
例えば、周囲の人との摩擦を恐れ自分の意見を押し殺してしまったり、他人と自分を比較することでも劣等感から自己嫌悪に陥ってしまうなどです。
これらの人間関係の悩みは、結果的に、その組織の目的を果たす上で障害になるような存在に発展してしまう可能性もあります。
そもそも、組織には、構成する個々が互いの足りなさを補い合うことで、目的を達成させる「共同体感覚」が不可欠です。
その意味でも、組織においては、個々の存在価値を認識し合うためにも、コミュニケーションが大切になってきます。
|嫌われる勇気
心理学の一つで、オーストリアの精神科医であるアルフレッド・アドラー氏が提唱したアドラー心理学があります。
自己啓発の父とも称されるアドラー氏の思想は、国内では、研究者が著者である「嫌われる勇気」で一気に広がりました。
アルフレッド・アドラー氏(1870年-1937年)は、かつてはジークムント・フロイト氏と共に研究していましたが、その後、独自の「個人心理学」を構築した人物です。
フロイト氏は、精神分析学の創始者として、結果の前には原因が存在するという「原因論」を提唱して心理学の世界に大きな影響を与えています。
対して、アドラー氏は、「原因論」と対局的に、トラウマなど過去の原因ではなく今の目的によって人は行動する「目的論」を提唱しています。
具体的には、「いじめをうけたから、部屋に引きこもる」というのが「原因論」であるのに対して、「誰かに心配してほしいから、引きこもる」というのが「目的論」となります。
過去原因を気にするのではなく、これからの目的に気持ちを向ける考え方に導くのが、アドラー心理学です。
これは、ビジネスにおいても、逆算思考に通じる非常に有益なロジックであると考えます。
アドラー心理学では、人間の悩みは、すべて対人関係によるものだとされています。
なぜなら、どんな悩みであろうとも、結局は、他の誰かがいてこそ成立するものだからです。
結果、人は、悩みを改善するため、あるいは、悩みを避けるため良好な対人関係を優先させます。
結果、他者に好かれたい、あるいは嫌われることを恐れる人が多いことに気づかされます。
度が過ぎると、当たり障りを恐れ、なるべく目立たないようにする人すらも少なくありません。
しかし、自分の考えを抑えて周囲に合わせたり、そもそもの人間関係を回避しているようでは良好な対人関係とはいえません。
アドラー心理学では、自身の悩みを解消させるには、人間関係を良好に改善する必要があり、そのためにも嫌われる勇気を持つことも大切と説いています。
但し、嫌われる勇気ですが、一緒くたに全ての嫌われるような考え方が良いという訳ではありません。
決して、自分本位のエゴイズムであってはならないことを認識すべきです。
|課題の分離
自分の主張を他者に受け入れてもらうには、まず、そのロジックを理解してもらう必要があります。
ロジックとは、論証の筋道、あるいは、議論の筋道・筋立てとされています。
その上で、それが、他者にとって必要なものであることを納得してもらわなければなりません。
そのためには、その事態を分離して考える必要があります。
逆に事態そのものを一緒くたに捉えてしまうと、目的が曖昧なまま複雑となり問題を増長しかねません。
対人関係の問題では、「その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?」(嫌われる勇気 P141引用)を明確にします。
つまり、それが「誰の課題であるか」を分離する必要するのです。
例えば、結婚は、本人の課題です。
対して、その結婚を親が反対するのであれば、親は子の課題に入り込んできたことになります。
反対された子は、反対してきた親に対して反論したとします。
すると、今度は、子が親の課題に入り込んだことになります。
なぜならば、子のことを心配するのは、親の課題であるためです。
課題を分離することは、難しいことかもしれません。
しかし、対人関係に関わらず、ロジックを構築する上で非常に大切な手順です。
自分も他者も成長するためには、課題を分離して解決のゴールへと向かうためには必要なことです。
この「課題の分離」は対人関係の悩みを解決するためのスタートであるといえます。
|共同体感覚
人間関係の悩みのゴールは「共同体感覚」となります。
「共同体感覚」とは「他者を仲間だと見なし、そこに「自分の居場所がある」と感じられること」(嫌われる勇気 P179引用)です。
共同体とは、組織であるといえます。
組織において他者貢献できていると感じることで、自分は組織において存在価値があると思うことができるはずです。
経済学者のC.I.バーナード氏は、著書「経営者の役割」の中で、組織には、その成立のための条件として「組織の三要素」があると示しています。
1.組織目的
参画する個々が、目的を共有していること。
2.貢献意欲
参画する個々が、組織の目的を達成するために、貢献しようとする意欲を持つこと。
3.情報共有
参画する個々が、目的は当然ながら、常に適正な情報を共有すべくコミュニケーションがとれること。
また、マネジメントで著名な経営学者のP.F.ドラッカー氏は、著書の中で、組織としての最小限持たなければならない条件として、明快さ、経済性、方向付けの容易さ、理解の容易さ、意思決定の容易さ、安定性と適応性、永続性と新陳代謝を示されています。
特に「組織の三要素」に付け加えるのであれば、明快や容易ということがが多用されている通り、ミスコミュニケーションによる弊害を避ける意味でも、シンプルな存在であることが求められているように思えます。
「嫌われる勇気」の中では、組織に限ったことではなく、「一般的な人生の意味はない」(嫌われる勇気 P277引用)と人生のシンプルさを示しています。
また、あえて、「人生の意味は、あなたが自分自身に与えるものだ」(嫌われる勇気 P278引用)と付け加えられています。
私たちは、過去のトラウマなどに囚われることなく、未来に向けて、たった今から変わることができます。
それには、誰でもなく、今をどう生きるか。どんな意味を持って生きるかを自分で決めることだと思います。
あとは、嫌われる勇気を持てるかです。
我妻 武彦(Takehiko Wagatsuma) 代表取締役社長