戦略人事「ダニングクルーガー効果」
- 2012.12.18
|戦略人事
企業は、その目的を果たすために、経営理念に基づいた戦略を立案し、それに沿って事業活動をマネジメントします。
そして、それらの活動には、資金調達、販売、人材管理、経営管理などの諸々の力の集合体である経営資源が不可欠となります。
経営資源とは、一般的にヒト、モノ、カネ、情報といわれています。
この経営資源を必要な部署や取り組みに供給するのも、インフラストラクチュアの取り組みとなります。
なかでも、筆頭の「ヒト」、つまり人事の重要性が高まっています。
従来型の人事とは、労務・法務などの制度やマニュアルなどのオペレーション業務ばかりに固執した保守的、定型的な前例主義がほとんどでした。
対して、現代では、労働力不足が深刻化していることや、それを補う意味での機械化の技術革新によって、人材には、よりクリエイティブ性のある能力と発揮が求められるようになっています。
反面、従来の経営戦略では、戦略的に人事を捉える意識が低かったといえます。
故に、今後は、人材と組織の側面から変革をリードしていく戦略的人的資源管理(以下、戦略人事)が重要視されています。
そして、戦略人事の一環として人材経営の在り方を「評価」、「育成」、「採用」の切り口で見直しております。
|ダニングクルーガー効果
日本固有の人事制度として代表的な終身雇用や年功序列は、高度経済成長期の日本経済を支えてくれました。
どちらの制度にも共通するメリットは、社員の会社への帰属意識が高まり、定着率の向上が期待できるものでした。
認知バイアスの一種に、ダニングクルーガー効果と呼ばれるものがあります。
これは、人間は無意識に、自分自身を自己評価で、実際の能力以上の過大評価をしてしまう現象を指します。
そもそも、能力の低い人は次のような傾向があるとされています。
・自分自身の能力が不足していることを認識できていない。
・自分自身の能力がどの程度不足しているかを認識できない。
・自分以外の人たちの能力が、どの程度なのかを認識できていない。
結果的に、実力を伴わない、根拠のない自信を持ってしまうのだそうです。
実は、前出の年功序列や終身雇用のデメリットは、社員が目的意識を持ちにくく、向上心を持ちにくいことです。
つまり、自分の能力が不足していることを認識する環境でないことから、ダニングクルーガー効果を誘発してしまう可能性があるのです。
現代は、高度経済成長期のように「つくれば売れる」あるいは「良いものをつくれば売れる」そんな時代ではありません。
しかし、バブル崩壊やリーマンショックなどの影響から、日本経済は長期間の低迷が続いています。
経済産業省がまとめた通商白書2011概要版にある「主要国の名目GDPの推移」を確認すると、日本の名目GDPは低成長を続けていることが見て取れます。
そもそも、年功序列を前提にした終身雇用は、長く雇用するほど、一人当たりの人件費が増加します。
終身雇用が生まれた背景からもわかる通り、右肩上がりの経済状況と企業の成長を前提にした雇用制度なのです。
この経済状況に対して、旧態依然の年功序列や終身雇用に固辞したままであれば、ダニングクルーガー効果に侵された企業は淘汰されてしまうかもしれません。
如何にして、この環境変化に対応して行くかが企業に求められているとも取れます。
|コンピテンシー評価
ダニングクルーガー効果は、年功序列、終身雇用を採用した企業において、ベテラン社員によく見られる傾向とされています。
ベテラン社員は、若手社員よりも給与が高いことになりますので、本来は高い能力を発揮して然りです。
ところが、基本的に降格や解雇がなく、外部の厳しい環境に対峙する必要性や客観的な市場価値を認識する機会がないため、ダニングクルーガー効果によって、自身の職務に合致した能力を発揮しようとしない状態に陥ってしまいます。
これが、近年、人事関連で取り上げられている「働かないおじさん」問題です。
そもそもベテランは経験値が高いのですから、不足している能力を認識させて補填することで、高い能力を発揮できるはずです。
しかし、ダニングクルーガー効果に陥った人ほど、正しく自分の能力や立ち位置、得意不得意を認識することができないとされています。
さらに主観的に自己評価を高くすることになり、自信過剰を引き起こし、学ぶ姿勢を失います。
結果、周囲からのアドバイスにも耳をかさなくなリ、成長する努力を怠り、事態に一層拍車をかけてしまいます。
それでいて、物事に対して上手く行かないと、その現実を受け入れることが出来ず、最悪、メンタルヘルスを発症してしまう可能性すらあります。
ダニングクルーガー効果ですが、外部からの気づきがあれば、自身の能力不足を認知できるともされています。
そこでベンカンが導入を開始したのが、コンピテンシー評価です。
コンピテンシー(competency)とは、「高い業績に結び付く行動や思考の特性」のことを意味します。
その基準は、経営として「求められる人材像」ともいえます。
しかしながら、架空の「求められる人材像」と比較するのではなく、実在する人材を基準に実在する人材を評価します。
そこには、ベテランも若手もありません。
何度も、基準とする人材を変えて、相対評価あるいは衆目評価を繰り返します。
そのため査定者の恣意的な評価も撲滅できる公明正大な人事評価も可能となります。
また、意欲的に行動する人も、そうでない人も、不公平に平等な評価される様な従来型の人事制度から、意欲的に行動し、成果に結び付けた人が高く評価され、そうでない人は低く評価される信賞必罰な人事制度も可能となります。
結果的に評価と経営への貢献度がリンクし易くなると考えております。
ベンカンといたしましては再構築段階でありますが、この人事制度という仕組みを通じて、組織内に存在する可能性があるダニングクルーガー効果を撲滅させ、これからの変動的で不確実、そして複雑で曖昧な時代に対峙してまいります。
我妻 武彦(Takehiko Wagatsuma) 代表取締役社長