戦略人事「ハロー効果」
- 2018.05.10
|戦略人事
企業は、その目的を果たすために、経営理念に基づいた戦略を立案し、それに沿って事業活動をマネジメントします。
そして、それらの活動には、資金調達、販売、人材管理、経営管理などの諸々の力の集合体である経営資源が不可欠となります。
経営資源とは、一般的にヒト、モノ、カネ、情報といわれています。
この経営資源を必要な部署や取り組みに供給するのも、インフラストラクチュアの取り組みとなります。
なかでも、筆頭の「ヒト」、つまり人事の重要性が高まっています。
従来型の人事とは、労務・法務などの制度やマニュアルなどのオペレーション業務ばかりに固執した保守的、定型的な前例主義がほとんどでした。
対して、現代では、労働力不足が深刻化していることや、それを補う意味での機械化の技術革新によって、個々の人材には、よりクリエイティブ性のある能力と発揮が求められるようになっています。
反面、従来の経営戦略では、戦略的に人事を捉える意識が低かったといえます。
故に、今後は、人材と組織の側面から変革をリードしていく戦略的人的資源管理(以下、戦略人事)が重要視されています。
|人からの評価
誰でも社会という組織に属しています。
組織に属している以上は、日常的にヒトを見る。つまり、他人を評価をしているかと思います。
これは、意識的に行っている場合もあれば、無意識の場合もあるはずです。
同時に自分自身も接する方々に評価されていることでもあります。
中には、その様な他人からの評価を気にし過ぎて、ノイローゼになってしまう方もいるようです。
しかし、好き嫌いなど、評価される側、評価する側のどちらにも、その性格や育った環境などの価値観の違いがあります。
それを、必要以上、気にする必要はないかと思います。
反面、社会の一員である以上、他人に迷惑を掛けるような評価は正すべきかと思います。
この無視すべき評価と受け入れるべき評価の基準が難しいところなのかもしれません。
人間心理には、最初もしくは同時に提示された特定の特徴や数値などの情報が印象に強く残る傾向があります。
そして、その印象が強いと、それが条件づけとなってしまい、その後の評価に影響を及ぼしてしまいます。
この様な思い込みともいえる認知バイアスの一種のことを「アンカリング効果」といいます。
|人事評価におけるハロー効果
ヒトを評価する上で、曖昧にできないのが企業における人事評価です。
企業とは、その保有する経営資源を日々の事業活動へ投入して利潤を追い求める存在です。
そのための筆頭資源が人材である以上、個々の評価を如何にして公明正大に実施するかは大きな課題となっています。
1920年に心理学者のエドワード・ソーンダイクが発表した論文の中に「ハロー効果」という概念があります。
「ハロー」とは、神々や聖人の絵画などで、頭上や後方に描かれる後光のことです。
つまり、その人の中身ではなく、後光に惑わされて評価してしまう人間心理を指しています。
「ハロー効果」には、「ポジティブ・ハロー効果」と「ネガティブ・ハロー効果」があります。
「ポジティブ・ハロー効果」は、実際の評価基準よりも、甘く評価してしまう傾向です。
対して、「ネガティブ・ハロー効果」は、実際の評価基準よりも、厳しく評価してしまう傾向となります。
この「ハロー効果」によって、例えば、自分の部下だから甘く評価する方がいれば、厳しく評価してしまう方もいるかもしれません。
その他、日頃から一緒に仕事をする機会が多い人だと、その印象などに引きずられた「アンカリング効果」によって、本質などの他の評価が歪められてしまう可能性もあります。
そのためベンカンで取り入れているのが、コンピテンシー評価と衆目評価です。
コンピテンシー評価とは、予め定められた評価基準である職務記述(ジョブ)に則って評価するものです。
また、衆目評価は、組織に実在する人の評価を基準として、特定の管理職に限定するのではなく、全社的に相対評価し合うものです。
これによって、ハロー効果を排除した公明正大な人事評価の実施に取り組んでいます。
|ハロー効果の活用
ハロー効果ですが、活用の仕方次第では、悪いことばかりではありません。
例えば、学生時代に「服装の乱れは、心の乱れ」などと生活指導を受けた経験がある方もいらっしゃるかと思います。
同様の教訓を教えていただきました。
・「人格」は「表情」に表れる
・「品格」は「服装」に表れる
・「習慣」は「体型」に表れる
・「清潔さ」は「髪」に表れる
・「美意識」は「爪」に表れる
・「誠実さ」は「姿勢」に表れる
・「心の安定」は「肌」に表れる
また、以前、脳科学者の茂木健一郎さんが、身体の状態、つまり行動によって精神がコントロールされることを「エンボディメント(身体性)」と紹介されていました。
確かにヒトの評価は、外見ではなく、中身なのだと思います。
しかし、その中身が外見に表れてしまうこと。
そして、中身を変えたいのであれば、まずは、行動などの外見から変えることも大切だということです。
そして、特に初対面の方と接する場合は、どうしても第一印象が大切となります。
ここで不快感を与えようものならば、「ネガティブ・ハロー効果」で評価を低くし、さらに「アンカリング効果」で、そう思い込まれ続けてしまうかもしれません。
実際、工場見学にいらっしゃったお客様が、だらしない格好で作業する従業員を見た場合、その人たちが造る製品に対して信頼していただけるのかです。
ここで、服装はだらしないですが、真面目でしっかりした従業員ですと説明しても説得力がありません。
ならば、中身が大切なことは十分理解していますが、その上で、見た目から印象を良くするように変えてみるべきなのかと思います。
確かに最初は外見だけの行為かもしれません。
しかし、「エンボディメント」によって、次第に、中身も変わってくる可能性もあるかと思います。
是非ともヒトの評価には、「ハロー効果」が存在することを意識してみてはどうかと思います。
我妻 武彦(Takehiko Wagatsuma) 代表取締役社長